5-2. 核酸分解酵素
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1) 多様な核酸分解酵素
DNAポリメラーゼもDNA分解活性をもつが、核酸分解酵素の種類は非常に多く、その分解形式や作用する核酸の形状もさまざま
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核酸による分類
デオキシリボヌクレアーゼ(DNase:DNアーゼ)
DNA分解酵素
リボヌクレアーゼ(RNase:RNアーゼ)
RNA分解酵素
概ね一本鎖RNAに作用する
ヌクレアーゼ
両方を分解できる酵素
切断形態による分類
エキソヌクレアーゼ
末端からヌクレオチドを1個ずつ外す酵素
酵素により反応の方向性、一本鎖/二本鎖に作用するといった区別がある
エンドヌクレアーゼ
核酸の内部を切断する酵素
一本鎖/二本鎖の区別がある
2) DNAに働くエンドヌクレアーゼ
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哺乳類由来DNase I
ウシ膵臓由来のものが使われる
一本鎖も切断するが、二本鎖DNAを優先的に分解してオリゴヌクレオチドを生成する
最大活性にはカルシウムイオン($ \mathrm{Ca^{2+}})を必要とするが、マグネシウムイオン($ \mathrm{Mg^{2+}})やマンガンイオン($ \mathrm{Mn^{2+}})でも反応する
金属イオンの種類によって切断特性が変化し、$ \mathrm{Mg^{2+}}では主に二本鎖にニックを入れ、$ \mathrm{Mn^{2+}}では二本鎖同時に切断する
DNAを分解除去するための最も一般的な酵素だが、$ \mathrm{Mg^{2+}}存在下でゆるやかに作用させることにより、DNase Iフットプリント法でのDNA切断やニックトランスレーションでのニック導入にも利用される
マイクロコッカルヌクレアーゼ(MNase)
黄色ブドウ球菌由来の$ \mathrm{Ca^{2+}}依存エンドヌクレアーゼ
二本鎖にも働くが、一本鎖DNAにも強い活性を示し(ATに富んだ配列を優先的に分解する)、分解産物は3'リン酸基末端をもつ
一般的なDNA分解酵素としても使われるが、クロマチン研究やChIP解析において、クロマチン切断のための酵素として使われる
ヒストンの結合したDNA部分には酵素が作用しにくい
RNA分解活性もあり、in vitro翻訳では内在性mRNAを除くための消化酵素として使用される
3) DNAに働くエキソヌクレアーゼ
DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性
DNAポリメラーゼは一本鎖、二本鎖にかかわらず、基質非存在下でDNA下でDNAを一定方向から削るエキソヌクレアーゼ活性を発揮する
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この目的に使われるものとして、大腸菌のDNAポリメラーゼI(pol I)、あるいはpol I由来のクレノー断片、そしてファージ由来のT4 DNAポリメラーゼやT7 DNAポリメラーゼがある
ファージ由来のDNAポリメラーゼの3'→5'エキソヌクレアーゼ活性は非常に強い
pol Iには5'末端からDNAを削る5'→3'エキソヌクレアーゼ活性もある
Bal31 ヌクレアーゼ
海洋細菌の一種のBal31のDNAエキソヌクレアーゼ
$ \mathrm{Ca^{2+}}存在下でDNAを3'末端、5'末端の両方から削るが、一本鎖DNAに対してはエンドヌクレアーゼとして作用するため、結果的に二本鎖DNAが両末端から逐次分解される
DNA末端からの欠失体作製に用いられる
エキソヌクレアーゼI(エキソI)
一本鎖DNAの3'-OH末端から5'-モノヌクレオチドを遊離させる大腸菌の3'→5'エキソヌクレアーゼ
一本鎖DNAのみに働き、二本鎖DNAやRNAは分解しない
一本鎖部分の同定、PCRプライマーの除去などに使われる
エキソヌクレアーゼIII(エキソIII)
大腸菌由来の二本鎖DNA特異的3'→5'エキソヌクレアーゼで、3'-OH末端から5'-モノヌクレオチドを生成する
一本鎖には反応しないため、3'突出末端をもつ末端部分には作用せず、これを利用して一方の末端のみを処理することも可能
DNAポリメラーゼが働けるような一本鎖部分の生成、他の酵素と併用してのDNA欠失体の作製、DNA-タンパク質相互作用の解析などに使われる
DNA-RNAハイブリッド中のRNAを、3'末端から欠失させる活性を併せ持つ
λエキソヌクレアーゼ
λファージ由来酵素で、二本鎖DNAに対して強い5'→3'エキソヌクレアーゼ活性を発揮する
一方のDNAを端から分解することにより、DNA末端n一本鎖部分を生成させるのに使われる
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4) 一本鎖を特異的/優先的に分解するヌクレアーゼ
この用途に使えるものは、コウジカビ由来のS1ヌクレアーゼ/ヌクレアーゼS1(青カビから分離されたものはヌクレアーゼP1という)や、緑豆由来のマングマメヌクレアーゼがある
いずれも一本鎖核酸特異性を示し、エンドヌクレアーゼとして、5'-Pをもつモノヌクレオチド〜オリゴヌクレオチドを生成する
S1マッピング、二本鎖核酸末端にある一本鎖核酸の除去で使われる
マングマメヌクレアーゼの方がより正確に平滑化する
エキソヌクレアーゼTは一本鎖部分のDNA・RNA両方に作用する3'→5'エキソヌクレアーゼ
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5) RNAを分解する酵素:リボヌクレアーゼ(RNase)
RNaseは一本鎖RNAに作用するエンド型のヌクレアーゼで、切断塩基に特異性を示すものもある
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RNaseA
RNAを分解・消化する最も一般的な酵素で、動物の膵臓由来のものが使われる
きわめて安定で、煮沸などの簡単な加熱では失活しない
ピリミジン塩基特異的RNaseで、ピリミジンヌクレオシドの3'側のリン酸ジエステル結合を切り、3'末端にCpかUp(pはリン酸基)をもつオリゴヌクレオチドを生成する
金属イオンは必要としない
RNAをより低分子に消化したい場合や、RNaseプロテクションアッセイでは、$ \mathrm{RNaseT_1}(RNaseT1)と組み合わせて使用される
その他、RNA配列解析、タンパク質やDNA試料に混在するRNAの除去などにも使われる
RNaseT1とRNaseT2
コウジカビから分離された酵素
RNaseT1
一本鎖RNA中のグアニル酸の3'側を切断する、きわめて特異性の高いRNaseで、RNA構造解析にも使われる
RNaseT2
切断特異性があまりなく(ただし、Aの後を好んで切断する)、最後はRNAを完全にモノヌクレオチドに分解する
memo: 大腸菌のRNase I
RNaseT2のような特異性の少ない酵素
塩基をより満遍なく切断するので、RNaseプロテクションアッセイに使用できる
RNaseH
DNA-RNA Hybrid(不均質二本鎖)中のRNAに特異的なエンド型リボヌクレアーゼ
RNA切断における塩基特異性はなく、活性に$ \mathrm{Mg^{2+}}や$ \mathrm{Mn^{2+}}を必要とする
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多くの生物やウイルスに見出されるが、試薬としては大腸菌のもの(岡崎フラグメントのRNAプライマー除去が主な機能)が使われる
レトロウイルスの逆転写酵素にもRNaseH活性がある
cDNA合成時に鋳型RNAを分解するときに必要
Column ヘビ毒の正体は核酸分解酵素
動物体内で核酸分解酵素を多く含むものといえば膵臓から分泌される膵液があり、遺伝子工学で使われるDNaseIもその由来は膵臓
もう一つは毒ヘビの毒液
ヘビ毒/蛇毒の主成分はその作用から、神経毒、血液毒、筋肉毒などに分けられるが、毒蛇は獲物の細胞成分を分解する必要があり、ヘビ毒の中に多種多様な加水分解酵素を共通して持つ
その中の一つ、核酸を分解する酵素がホスホジエステラーゼ
リン酸ジエステル結合を加水分解する酵素であり、ヌクレアーゼも広い意味ではホスホジエステラーゼ
通常のヌクレアーゼが核酸やオリゴヌクレオチドのみを標的とするのに対し、ホスホジエステラーゼはそれ以外にもビスリン酸(p-ニトロフェノールリン酸)などの単純ホスホジエステルも分解する
ホスホジエステラーゼは塩基や糖、核酸の形態に対する特異性を示さない(DNAもRNAも分解する)
ヘビ毒ホスホジエステラーゼは3'-OH末端から3'→5'の方向に段階的にリン酸ジエステル結合を切断して5'-モノヌクレオチドを放出する
一本鎖核酸のほうが二本鎖核酸よりも反応性が高い